哀しみの劣化ワイン


いつ飲もうかな〜、意外と出費だったし、やっぱ週末デートの
のとき、ワイン持ち込みの店がいいかな〜〜〜なんて
ちょいと楽しみにしていたワインが、いざ空けてみたら劣化ワイン
だった──。そんなことって、ありませんか?みなさん!


亜樹はあります
それも、一回や二回じゃない。
ざっと記憶の巻物をひもときますと、
70年代ワイン……2回(高いだけに慟哭!)
80年代ワイン……2回(安くはないだけに痛恨!)
90年代ワイン……なぜか多くて9回。とくに、なぜか97年が多し!

てな具合。

ね〜?思いの外、多いでしょう?(飲んでる回数が
多いからじゃないのアンタ、というツッコミはやめましょう)


そしてまた今回も、めぐりあってしまいました劣化ワイン。
モノは都内のワインショップMで購入した「ロシニョール・トラペ
シャペル・シャンベルタン(特級畑)96年」でございます。
ロシニョールはジュヴレ村の名門トラペ家から90年に分家し
で、近年評価のあがっている生産者。でもって96年はブル良好の
年……。おおよそ十年を経たブル特級畑ワインが旨くなくて
どうしましょう。
お値段は1万円強
もちろん高いですが、ブル新星のロシニョール氏の
特級ワインのバック・ビンテージですからしかたない。
さあっ、利くぞ!と、勢い込んで抜栓。
……がっ!


意外とラクにすっぽ抜けたコルク(これがクセモノなんです。
スッポ抜けコルクに旨いワインはありましぇん)
をくんくんと嗅いだとたん、や〜〜な予感。
旨いワインはコルクも旨そうな発酵臭がしますが、
なんというかな〜、メタンガスのような変な匂い!
(ま、まさか……)と祈るような気持ちでグラスに注いで
ワインの色をチェックすると……。
嗚呼、やはり……濁ったドドメ色!


もちろん、飲んでみるとメタンな味わい
これはどのようになだめすかしても決して笑いかけては
くれない劣化ワインであります。
男女の仲でいえばですね……。
たとえば空けたとたん「あんた相変わらずバカね!」
「オマエこそ、ブスなのは死んでも治らねえな!」
てなケンカをしているくせに、2時間放置でもとのサヤに
すんなり収まりかえって、調和しちゃうふたり。これが劣化
ギリギリのようにみえてじつは熟成した良質の古酒などにみられるパターン
なのですね。いるでしょ、そういう熟成ワインみたいなカップル。



が、劣化はちがう。もう、ケンカはないんです。
ケンカってのは、その果てに和解があるわけですから。
最初から無言攻撃で、ケンアクそのもののムードが
ニコリともしない二人からプーンとただよっている……。
このロシニョールもそうでした。
もう、ケンカはしない、とドドメ色の液体がそう語っています。

亜樹は涙を呑んで、このワインを排水口に流しました。
「海に帰れ……」
そう呟きながら……泣。



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