ワイングラス考
ワイン愛好家が、いがいと悩むのが、ワイングラスの収納場所です。
なにしろあれは背が高いので、ふつうの食器棚だと天井が低くて
入らなかったりすることもあるのです。亜樹の家の食器棚は、ワイングラスを
中心に据えたものなので、棚と棚の間隔が高いから、収納にはなんの心配も
いらないんですが、よそん家ではそうもいかないですよね……。
しかし、そんな亜樹でもワイングラスの壊れやすさ には
ちょっとメゲてしまいます。酔っぱらってワイングラスを洗おうとして、
パリーンと割ってしまったことも一度や二度ではありません。それがリーデルの
ソムリエ・シリーズだったりした日にゃ……。もう泣くに泣けません。
てか、ホントに泣いちゃったし。
そんなことを、亜樹だけではなく、おそらくワイングラスを開発している会社の
オーナーさんも感じたんでしょう。少なくとも、ワイングラスの
世界的企業「リーデル」社の社長さん一家は、同じ経験をして同じことに悩んで
たに違いない。(ワイングラスって、どうしてこんなにジャマっけで、どうしてこんなに
割れやすいんだろう……)と。
そこで思いついた商品が、これなんです(想像ですが、多分ね)。
見てびっくりの脚レス・ワイングラスで、その名も「リーデル O(オー)」。
つまり、グラスの脚部分(ステム)をばっさり切り落としたカンジの
独創的なワイングラス。Oというアルファベットのシルエットそのままの
形をした、丸っこくて安定性のいいワイングラスです。
このグラスのことを初めて知ったのは、フト目にした「日経流通新聞」でした。
料理研究家とかの小さなコラムだったと思います。
「割れないし、収納場所をえらばない」と、評価していました。
亜樹はそのとき、研究家のコメントにおおいに共感し、
無性に実物を触ってみたくなりました。
で、さっそく自宅近くの有名ワインショップ「E」へ。ここならきっと
「O」がおいてあるはずです。
……おっ、ありました、ありました!
箱から出して触ってみると、脚がないことをのぞけば手のひらへの
収まり具合といい、スワリングの感じといい、
なるほど、リーデルのワイングラスです。
ちょっと、飲み口が大きいかもしれない。でも気になるのはそれくらい。
たしかに便利そうだし、扱いがラクチンそう。そして品質は間違いなく高いです。
さあ〜〜〜、どうしよう。買おうか買うまいか。
お店の人も、ワイングラスをいじくりまくって眉間に縦皺よせてる亜樹を、
ちらちら見ています……。亜樹、悩みます。10分以上は悩みました。
──がっ!
悩みまくったあげく結局、購入は見送ってしまいました。
(ごめんなさい、店員さん。商品に指紋をいっぱいつけちゃいました……汗)。
なぜ、あんなに迷ったのに買えなかったのか。
振り返ってみますと、どうも亜樹はこのグラスの
「要領がよすぎるところ」が、ちょっとキライだったのかも。
たしかに便利かもしれない、たしかにラクかもしれない、そしてたしかに
壊れないかもしれない。でもそれって、そんなに重要なことなんでしょうか。
むしろ、そういう方向の考え方が中心になっていくにつれて、
人の生活って、なんだか薄っぺらくなっちゃったような気がしたんです。
(もちろん、考えすぎといわれればそれまでの話ですが……)。
たかがワイングラス、されどワイングラス。
背が高く脚が細く長く、邪魔っけで壊れやすいけれども、
ただワインのためだけに存在しつづけてきた昔ながらのあの
ワイングラスが、 やっぱり好きです。
- 作者: オキモト・シュウ,亜樹直
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/05/23
- メディア: コミック
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