ムートン2003年を飲んだ


寒いですねぇ〜〜。
亜樹がこどもの頃は、冬になるとよく水道が凍って水がでなくなったりして、
それは困るってんで、夜のあいだ、ポツリポツリと蛇口を緩めて水を垂らして
おいたもんです。こうすると、凍らないんですよね
(あっ、ちなみに亜樹の実家は東京都下にあったんですよ。決して東北とか
寒いところの話じゃないんです。ン十年前の東京は、今よりずっと寒かった
わけなんですね、ハイ)


思い出しついでに書いちゃうと、その水道のシンクの下には
食品貯蔵用の戸棚がありまして、糠味噌のとなりに、
赤玉ポートワインてのが仕舞ってありました。それも、すごく大事そうに。
父や、祖母とかも、それをチビチビ飲んでいましたねぇ。
亜樹が「ねえ、それおいしいの?」と聞くと、
父親はいつも、「当たり前だ。これはお前、ワインっていうアチラの葡萄酒なんだよ。
うまいに決まってるだろうが」
と、切り返してきました。ちなみに父は欧米のことをアチラ、と呼んでいました。
恐らく「こちら」が日本、「あちら」が欧米ということでしょう。

赤玉ポートワインは、その後、時代の流れとともに
定番商品の地位を追われていくわけですが、
「ワインというアチラの葡萄酒」を日本人に知らしめた役割は大きかったと思います。



さて、のっけから思い切り脱線しましたが、この日曜日、亜樹は
近所のワインショップEで行われた「バロン・フィリップ・ド・
ロッチルド系ワイン、一気飲み」
というイベントに顔をだしました。
ボルドーポイヤック村の一級シャトー、ムートンを筆頭に
チリ、南仏など、さまざまなエリアで造られているバロン.F.ロッチルド系
ワインは、それぞれに似たようなDNAをもっているといわれています
有名どころではチリのアルマヴィーヴァなどもそうです。

それらを並べて飲み比べるという試みには、興味をひかれました。
でも、それでEのイベントに行く気になったわけではありません。
亜樹の最大の目的はムートン03年を飲むことでした。

ムートン03年。このワインは、じつは昨年秋にシャトー・ムートンに取材に行き、
樽からの試飲をした経験があります。
樽でまだ眠っている途中のムートンを飲んで亜樹は
「すごい美味……しかも、もう飲めるじゃん!」と、ちょっと感動して
しまったので、そのワインが完成し、試飲できると聞いて、矢も楯もたまらなく
なったわけです。


その日の試飲ラインナップは8種類でした。白2、赤6です。
8アイテムのトリが、ムートン03です。
店内はもちろん、ムートン目当てのお客で
イモ洗い状態にごった返しています。
まずは、店の2階の試飲コーナーに鎮座するムートンのボトルを
見ながら、試飲開始。どうです、このエチケット。レトロ
カンジで、かっこいいでしょ?


8種類一気飲み、といってもムートンの前のワインは、
いってみれば「前座」みたいなもんです。
チリの銘酒といわれるアルマヴィーヴァは、好きな人は好きだと
思いますが、これはどうも個性がキツすぎて、亜樹の好みでは
ありません(まずいというわけではありません。好みの問題)
でも、なかには「おっ、旨い」と思ったワインもありました。



ムートンの次に旨い、と感じたワインは
その名をバロナークといいます。
AOC「リムー」という聞き慣れない地区ですが、
ラングドックから独立して最初のビンテージが03年
てなことでした。そのときEでは6000円くらいで売って
いましたが、ネット酒店では4000円くらいで見つけることが
できました。これはお買い得です。03年という
偉大なビンテージも手伝ってのことでしょうが、
濃厚でパンチがあり、厚みと風格がありました。

使われている葡萄品種も面白いです。カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・フラン、メルロの3種類ほか
グルナッシュ、シラー、マルベックをブレンド
しています。
まるでメドックと南仏の結婚みたいな合わせワザで、
それだけでも試飲してみる価値アリです。


さて……ムートン03年。
そりゃもう、凄かった。
複雑さ、果実味、香り、どれをとってもピカイチの一級品です。
しかし不思議なことに、できたて03年であるにも関わらず「幼児殺し」
してるカンジはあまりしなかった。
グレイト・ビンテージのボルドーは若いうちに飲むとだいたいタニックで
飲みづらいですが、果実の熟成感のせいか、「もう飲める」
ような旨さがあるんです。不思議でしたねぇ、これは。
といっても、実際にはまだまだ寝かせなくては勿体なくて飲めませんけれど・・。


この日、航空便で仕入れたというムートン03年を「E」で購入した亜樹は、
まるで愛しい赤子を寒風から守るように、両手でシッカリとボトルを抱えて帰途についたのでした・・・・。

神の雫(4) (モーニング KC)

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