温泉でワイン


正月に、熱海温泉にいきました。
温泉宿にワインを持ち込んで、至福の【ウダウダな休日】を過ごす計画です。
熱海には、亜樹の気に入りの温泉ホテル「H」がありまして、
ここは品のいい野菜中心の懐石料理を出すんですね。
お値段もチト高い宿ですが、ま、正月くらいはいいか、とフンパツです。

料理にあわせて持ち込むワインは、やはりブルゴーニュ
ちょいと張り込んでジャック・フレデリック・ミュニエ
「シャンボール・ミュジニー・レ・ザムルーズ」
2001年です。

これは神の雫本編で登場した「第一の使徒と畑も
ビンテージも同一のワインです。
生産者は違いますが、ミュニエのレ・ザムルースは別格と思われます。
なにしろこの生産者、30歳まではエンジニアだった
そうですが、「特級ミュジニーと一級レ・ザムルースが
造りたくて、ワイン造りを始めた
」と言ってのけるようなおヒト。
つまり、シャンボール・ミュジニー村のワインに
ぞっこん惚れ込んでる造り手なんですね。それだけに
レ・ザムルース01年、期待は高まります。
なかなか手に入らないこのワイン、亜樹のコレクションの
中でも、かなりのお宝といっていいでしょう。
……がっ!


亜樹の計画では、この温泉ホテルの料理は「ワインのサシミのツマ」
にすぎず、主役はあくまでもレ・ザムルース……だったのですが、
でてくる料理が、なんか去年までと違う?!
「品のいい懐石」のハズだったのに、いきなりボイルされた伊勢海老の半身が!
「なんかヘンだ」といやな予感がしたので、ワインの栓はあけずに様子を
みていますと、テーブルにはフォアグラつきステーキ、
さらに海老の煮物、肉の時雨煮……海老、肉、そしてまた海老……と
重〜〜い料理が怒濤のように運ばれてくるじゃありませんか。
もちろん、こんなのブルゴーニュには、ましてやシャンボール・ミュジニー
村のワインにはまったく合いません!

おまけにその量たるや、まるでワンコ蕎麦。一皿やっと食べられたと
思ったら、また次の海老そして肉料理が……。
残すのも悪いし勿体ない、と思いつつがんばって平らげているうちに
鉄の胃袋を誇る亜樹も、だんだん苦しくなってきました。

ぐっ……ほんとに苦しい……。
お願いもうヤメテ、と消化器たちが叫んでいるのがわかります。
あと一尾、海老がでてきたら、食道から逆噴射しそうです。
動物性タンパク質を大量食いすることが、こんなに苦しいことだったとは!
これはもう我慢大会……いや、拷問に近い。


最後にでてきたデザートは、とうとう手をつけずにそのまま
お引き取りねがいました。
膨張しきった胃袋をかかえて、夕食後の気分は最悪
あとでよくよくきいてみたら、このホテル「H」は経営者が変わったため
コックさんも変わってしまい、去年までとはがらりと違うサービスになった
とのこと。なるほどと納得しましたが、それにしても舟盛りにしろ、
伊勢海老の半身にしろ、旅館の夕食ってやつは、どうみたって
ひとりの人間が一食でたいらげる量を超えていると思いませんか?
しかも、動物性タンパク質が多すぎませんか?
野菜より処理がラクで豪華にみえるってことなんでしょうけど、
肉食動物じゃないんだから、ねぇ?


てなわけで、料理をワインにあわせるどころの騒ぎではなく、
胃の膨張感と戦いながら4、5時間、腹をすかせるために
風呂場を行ったり来たり、ゲームセンターを歩き回ったりして、
ようやくワインを飲める腹具合になってきたのは、
夜も12時をまわったころでした。(……クッ)。

やっと本題のシャンボール・ミュジニー・レ・ザムルースです。
(前置きが長くてスイマセン……)

ミュニエのこれは、ほかの造り手とやや趣を異にしています。
本来は、透明な泉のほとりにたたずみ、小鳥のささやきと木の葉のざわめきに
耳を傾けているような「陰」のワインであるレ・ザムルースですが、
これはやや強めの造りです。むっちりとした凝縮感、濃度があり
甘さと色気があり、しかしながらミュジニー村の気品と静けさを備えている。
レ・ザムルースのなかでは、かなり「陽」を感じさせます。


この造りを是とするか非とするかは、好みの分かれるところなのでしょう。
でも、木漏れ日がきらきらと差し込む森のなかをひとり散歩するように
静謐な中にあってちょっぴり楽しげなこのワイン──亜樹は、好きです。


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