ビー・ビー・グラーツを利く


亜樹が集めたワインの数は、「もうわからない」という以外にありません。
自宅セラーはたちまち満杯になり、品川の冷蔵倉庫に数百本を託し、
それでも足りなくて、今では高温を嫌うワインたちのために亜樹は「部屋
を借りています。一年中空調かけっぱの、セラー部屋ですね。
ここは天井以外はすべてワイン、ワイン、ワインで埋めつくされています。ヒトは住んでいません。
誰がみても、かーなーりー驚く光景だと思います。


じつは、『神の雫』に登場するイタリア長介のクレイジーな「ワイン部屋」、
あれは、亜樹のこの「セラー部屋」がモデルになっているんですね。
作画のために部屋を撮影にきた漫画家・オキモトはアングリと口をあけながら
「ひぇぇぇっ、借りたマンションを勝手にワイン部屋に改造するなんて……。
亜樹さん、これ犯罪っすよ」と、白〜い視線を亜樹に注いでました。


ハイ、まさに。
お言葉通り、あの部屋の大家さんは、まことにお気の毒でございます。
亜樹はいつも、心の中で手を合わせておりますです。ゴメンナサイ。


話がしょっぱなからそれました。
なにがいいたかったかといいますと、その亜樹の「セラー部屋」
に眠る無数のワインたちのなかでも、たった1本しか存在しないのが、
醸造者の肉筆サインいりワイン」なのでございます。


作家が自著本にサインするのはよくありますが、醸造者がワインに
サインをするってのは、そんなに多くないと思います。
そういう珍しいことをしてしまう御仁が、イタリアはトスカーナ
ビー・ビー・グラーツさんなのであります。

グラーツさんは、アーティスト一家に生まれた異色の醸造家。
イタリアの太陽と空を切り取ったかのような色彩鮮明なエチケットの
「テスタ・マッタ」は、00年がファースト・ビンテージでしたが、
翌01年産が世界最大のワイン市「VINEXPO’03(ヴィネクスポ)」の
ブラインド・テイスティングで、はやくもナンバー・ワンを獲得したという
化け物ワインです。

サンジョベーゼを主体としたスーパータスカンのひとつであるこの
ワインは、当然ながら超長熟の「ヴィノ」。10年以内に抜栓するのは
御法度、とわかっていながら、無性にあけたくなりました。
というのは、おつきあいのある某インポーターさんから「グラーツさんが
来日しますよ。よかったらお会いしてみますか」とのご提案をいただいたため。
ご本人にお会いするのだからやっぱ、彼の看板キュベ「テスタ・マッタ」を飲んでみないと。もちろんもったいないけど……早いけど……
でも飲まないと……と、まあそう思ったわけですね。


亜樹の手元には00、01年、02年と最新ビンテージがすべて揃っています。
(サイン入りは、ファースト・ビンテージ00年のもの。これは貴重品なので
まだちょっと、あけられません……)
ということで、今回は、苦しいビンテージだったという02年をあけてみることにしました。
苦しい年なら、いささか早のみしても大丈夫かな、と思ったこともあります。
さあ、うわさの天才醸造家、グラーツのワインやいかに・・・・。


話はこれから、なんですが、さっき飲んだワインが全身にまわって
眠たくなってきましたので、続きはまた……あした。ZZZZ……。

神の雫(3) (モーニング KC)

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