これがほんとにラス・カーズ?!

このブラインド・テイスティングで最初に困惑し、迷ったのが、
「レオヴィル・ラス・カーズ」でした。
じつは亜樹、この春に一度、ある席で79年ラス・カーズを飲んでいたのです。
このときの79はすでに完全に熟成していて、あと5年経つとヘタレが待っていそうな
状況でした。(もちろん日本で買ったもので、長い年月の間、
どこの倉庫を転戦してきたかまったくわからんシロモノなんですが……)。
さらに、79年ビンテージは、当日のテーマである75年と葡萄の出来ばえは
そんなに変わらないはずでした。だから、ブラインドでだされたこのワインを
飲んで亜樹は(あっ、79年ラス・カーズと違う。すんごく違う。こりゃ、
ラス・カーズのはずがないわい)と、決めつけちゃいました。

ちなみに、この日の75ラスカーズを表現するなら、こんなふうです。
生まれたてのワインであるかのようにカベルネの本質が生き生きと美しく輝き、
90年代以降の、資本主義社会に添い寝するメドックワインを嘲笑うかのように力強く、
堂々として、王者のワインの名に恥じず、流麗にして荘厳なる味わいを讃えていた……。


とまれ、目の前のグラスのルビー色の液体は、いままさに満開を迎えた大輪の紅薔薇のように、りんとして美しく、あたかもその味わいは、五大シャトーであるかのように、亜樹には思えたのでした……。
そして──。ムッシュ・スドウの「じゃあ、みなさん手あげて。このワインを、五大シャトーだと思う人〜〜」の呼びかけに応え、亜樹もまた、ほかの数人といっしょにスクッと右手をあげたのでありました。


☆以下、次号!

神の雫(2) (モーニング KC)

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