ムッシュ・スドウの究極のワイン会


あれはたしか、さかのぼること1カ月ほど前、でありました。
夕刻、携帯電話が鳴り、フト着信番号をみると
なにやら違和感のただよう電話番号……。
数字の配列がなんかヘンなその番号は……そう、まさしく海外からの
コールでした。

(もしや……)と思って電話を取ると、やはり!
巴里在住のワイン・ジャーナリスト、ムッシュ・スドウ
聞き慣れた声が耳に飛び込んできます。



スドウ「亜樹さあ〜〜ん、スドウですう。相変わらず飲んでますかぁ?」
亜樹「ええ……飲んでます」
スドウ「あのねぇ、ぼく9月に日本にちょっとだけ帰りますよォ〜」
亜樹「えっ、マジっすか。じゃあ、もしかしてまたワイン会、やるんですか」
スドウ「ハ〜〜イ、やりますよォ。9月2日です。
こんどの目玉は、53年『シュバル・ブラン』
ですからねえ〜。フランスのコレクターから買いつけ
たんですよ。ホ〜〜ッホッホホホ、すごいでしょォ?」



ちなみに、『白馬』という意味の名前をもつこのワインは亜樹の大好きなボルドー・ワインのひとつです。
シャトー・オーゾンヌと双璧をなす、右岸の王者ですね。



亜樹「シュバル・ブラン?!すごい!参加します、
飲みたい、飲ませて!」
そういうと思ってましたよォ〜、ホ〜ッホッホッホ、と「笑うせえるすまん」
を彷彿させる怪しげな高笑いを残しつつ、ムッシュは電話を切りました。


ムッシュ・スドウのワイン会……。それは、どこにでもある楽しいだけのワイン会とは
一味、ちがいます。
なによりもまず、全国津々浦々から集う参加者たちの、ワインへの「ハマリ度」がそもそもちがう。

ここでは、「マイ・グラス」を持参してくるのが当たり前。あたかも真剣勝負にのぞむサムライが、磨き抜いた刀を敵の眼前でスラリと抜いてみせるときのように、彼らは手入れの行き届いたマイ・グラスを、座るやいなやテーブルにすっと置いてみせる。
(初めてこの光景を見た時には驚いた亜樹でしたが、いまではすっかり慣れました)
だれしもが「きょうこそムッシュ・スドウがブラインドで出すワインを100%、当ててみせる!」
と笑顔の奥で闘志を燃やしており、その双眼には赤い炎がちらついています。


数十年ワインを飲み続けてきたジャーナリストもいれば、ワイン・アドバイザー
の有資格者もいます。文字通りの「手練れ」が、ムッシュのワイン会には集まってくるのです。
しかし、そんな彼らですら、ムッシュがフランスからエアーではこんできたワインの
銘柄をズバリ当てるはかなり、むずかしい。もちろん、亜樹もむずかしい。
毎度、悩まされたあげくに、半分当てるのが精一杯・・・・。
でもねえ、違うんですよね。
日本で飲むワインと、それはあまりにもかけ離れた味わいで、古酒でありながら
まるで数年前のワインであるかのように生き生きとしていたり、日本人が国内で体験できる味とは、まるでちがった形に変貌している事が多いのです。

↑勢ぞろいしたムッシュの古酒


そして、9月2日──。ムッシュのワイン会の日がきました。
会場は、目黒駅から徒歩3分のイタリア料理店「T」。
年月を感じさせる、シミやらなんやらで汚れたエチケット(ラベル)のワインたちが
ずらりとテーブルにならびます。

ムッシュ「最初は白ワインですよォ〜〜。これはどっちも85年ですが、2種類しか
ないんですね〜。ローヌの『エルミタージュ・ブラン』と、ムルソーのどっちかです〜。
ふたつにひとつです〜。さあ、どっちがどっちでしょう。飲んでみてくださ〜〜い」


↑白のローヌです

すべてのワインは、1時間以上前に抜栓してあるとのこと。
さて……。最初の白ワインを一口。

むむっ、これは……??
この前飲んだギガルの白ににてる……にてるけど……
なんかちがう!?
亜樹、はやくも混乱しはじめました。

(次回に続く)

神の雫(3) (モーニング KC)

神の雫(3) (モーニング KC)